『ホンモノの日本語を話していますか?』金田一春彦
ホンモノの日本語を話していますか? (角川oneテーマ21) | |
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久しぶりの金田一博士の著書。
前の『日本語』の印象が強かったのだが、
この本は一転して読者によった親しみやすい語り口で書いてある。
時折、思わずたしなめたくなるような論理の飛躍があったりするが、
それは恐らくあるタイプの読者を想定してたのしくとかそういうコンセプトで書かれたからではないだろうか。
内容自体は面白い。
さすがは一流の学者だといえる見識の広さをもっている。
こういった本を一度は読まないと日本語に対する思いこみは氷解しないだろうと思う。
その意味で難しい本はちょっとという人にお薦めの本である。
2006.1.12 記
『歴史随談』海音寺潮五郎
歴史随談 (文春文庫) | |
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史伝だと思っていたがどうも違うようだ。
「執念谷の物語」「得意の人・失意の人」「日、西山に傾く」の三冊から編集して構成されたものとのこと。
1章
「執念谷の物語」
武田家の家臣だった羽根田輝幸の物語。
武芸に通じ、兵法にも優れたものだったが、真田昌幸の掌の上で躍らされる様は見事に描かれている。
海音寺という人は膨大な資料をもとに精緻に描くという書き方の創始者と言えるが、
この話でもそれが明確に現れている。
なぜ鈍い男がこのような判断を下したのかが明確に判る。
この作品はまま面白かった。
「蝦夷天一坊」
大庭平三郎が武田信広を殺してなりすまし、ついには大名となる。
彼の子孫が松前藩を興す。
事績が丁寧に追ってありなかなかおもしろい。
最後の彼の言葉がまた上手い。
もう少し手を入れて登場人物の心情に迫ればかなりの佳作になっただろうに、そこは惜しい。
「ただいま十六歳」
目を疑うようなタイトルだが内容は大したことはない。
信長の妹お市の方の長女茶々、後の淀君が主人公だが、
どうも的を絞りきれなかった。
茶々の心情はなにかとってつけたようだし、
茶々自身の事績がこの年齢のときには無いので他の人の話が並んでいて、どうも散漫。
この年の茶々を主人公に据えた仇が見事にたたっているようだ。
2章は史伝の類だと思うが、どうも中途半端。
もっと短くするか長くするかしないとどうにも。
最後の「長蛇」はかなりよいと思うが、惜しいという印象。
もう少し最後を工夫して手を入れれば良い話になるだろうに。
3章
歴史随談はこの本の目玉とも言えるもの。
昔話したことの速記録を起こしたものだという。
これはなかなか面白い。
話があちらこちらに飛び火するので散漫な感じもするが、
一つ一つが面白いのでそう気にはならない。
逆に息つく暇もないぐらいのテンポで進む感じである。
一読してみれば海音寺の深い視点が楽しめるだろう
2006.1.9 記
『ケルト民話集』フィオナ・マクラウド
ケルト民話集 (ちくま文庫) | |
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「クレヴィンの竪琴」
王女が好きになった男と結ばれなくてと言う話。
ありがちな感じの話かと思ったが、だんだんもの悲しくなってくる。
クレヴィンは何をしたのだろう。
彼がかわいそうすぎる。
だからといって誰が悪かったのだろうか。
強いて言えば王が物語の原因だとも言えるのだが、それも酷な話。
この物語はクレヴィンのもの悲しさが覆っていて読後感があまり良くない。
作品として見るとクレヴィンが前半からまないのはおかしい。
しめの文もなんだか。
王女の恋の相手であるコルマクが主の話とはとうてい言えないと思うのだが。
なんだかんだ言ってもこの話はフィオナマクラウドの代表作と言えるできばえである。
「雌牛の絹毛」
次の話に続く主人公エイリイとイスラがどうして国を出て旅に出なくてはならなくなったのかという話。
この話も暗い。
これ単体では成り立たない話ではある。
「ウルとウルラ」
やはり幸せにはなれない。
この作品も暗い。
ただこれはそう見るべき作品でもない。
まあまあ。
「白熱」
息子が白熱という病にかかって無くなる様を回想の形式でつづっている。
白熱というのはスコットランドで運命に見込まれて急激に身体が衰えて死んでしまう病とのこと。
というわけでこの話も明るくなるはずもなく。
掌編のわりにはよく纏まっている話だと思う。
「海の惑わし」
なんか難しい話。
アンドラは物語の最後で正気にもどったのだろうか。
この話も気が狂うところを描いていて暗い。
「罪を喰らう人」
この話は罪を喰らってお金をもらった人がその後どうなったかを描いた話。
本当に救いの無い話で読むのがつらくなるほどである。
この作品は安易に面白かったとかは言いたくない。
しかし、一度読めばその印象をぬぐうことが出来ないだろう。
作品としての出来もかなりのレベルにある。
構成も良く描写も上手い。
これは傑作だと思う。
「九番目の波」
死を誘う九番目の波に呼ばれた男の話。
決して逃れられない逃避行も暗い。
そこそこ良くできている。
ラストの台詞がよいね。
「神の裁き」
なんだか感想を書くのがだんだんつらくなってきた。
なかなか出来が良いと思うのだが、とにかく暗いのだ。
この作品も多分にもれず。
最後に語り手がいう言葉が秀逸。
「イオナより」
聖者の島イオナが彼の物語の舞台であり、それについて作者自身が解説しているものか。
正直ちょっと難しいと感じた。
末尾に荒俣宏による解説があり、時代背景などよくかけている。
作者フィオナマクラウドが叫んだ言葉が引用してあった。
「ウェールズのケルトは余裕がある。アイルランドのケルトも楽天的だ。
しかしスコットランドのケルトだけが昏く悲しい。」
2006.1.8 記
『ベーオウルフ』忍足欣四郎訳
ベーオウルフ―中世イギリス英雄叙事詩 (岩波文庫) | |
忍足 欣四郎 岩波書店 1990-08 売り上げランキング : 117748 Amazonで詳しく見るby G-Tools |
古英語といえばベーオウルフというぐらいの作品。
英雄叙事詩である。
只でさえ詩という形式で理解しにくいのに、
話があちらこちらに飛び火して未来や過去が入り乱れるのでわかりにくい。
ただし、描写が巧みで雰囲気がぞくぞくと伝わってくるのは凄い。
各節の始めに内容の要約があり、それを拾い読みするだけでもおもしろい。
解説はしっかりしているのでそこも見物。
2006.1.7 記
『比較文化論の試み』山本七平
比較文化論の試み (講談社学術文庫) | |
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何気なく手に取った本だが、出色の出来だった。
私のような門外漢にもわかりやすく書かれた比較文化論。
特に宗教的な観点を重視している。
日本の特色は外の世界との比較で明らかになるというが、
こういった本はとかく難解になりがちだがわかりやすく書かれていて、
かつ、内容の深さを損なわない。
この内容で100pそこらというのも破格。
こういうのを良書というのだろう。
一方で一般向けだからかもしれないが、やや論理に飛躍があるような気もした。
もっと外の世界の例示がないと説得力は足りない。
試みと言っているので仕方のないことなのかもしれないが。
30年も前に書かれたとは思えないほど、現在の状況と変わっていないと感じた。
日本が鎖国に向かっているというのは疑問符だが。
前書きがやや難しいのでそこは飛ばしても可。
悪いことは言わない。一度は読むべきだ。
要再読。
2006.1.5
『論語』訳注金谷治
論語 (岩波文庫) | |
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こんな本さえ読んでいない。
結構あちこちで読んだ話がところどころに出てくる。
孔子という人はもっと水のような、つまり清廉潔白な人物だと思っていたのだが、
なかなかどうしてそうではないようだ。
論語ももっと書店で見かける十把一絡げの自己啓発本に毛の生えたようなものかとおもっていた。
音楽の好きな自己顕揚欲にあふれ、人情味のある人だったようだ。
ただし、孔子自身は時の為政者に敬遠されたのもなんとなくわかるような気がする。
そんなにすごい本なのかなあというのが正直な感想。
但し、すでに別所で儒教思想に慣れすぎていて初読で抱くべき衝撃を受け損なったのかもしれない。
思想書としてよりも孔子とその弟子の人物伝としてみた方がおもしろい気はする。
おそらく年代順に並んでいないためと想われるが、なんとなく矛盾を感じることもあった。
意外というのが当てはまるか。自分の思いこみと違う論語があった。
読んで損はないだろう。何かしら得るものはあるはず。
2006.1.4 記
『武術の創造力』甲野善紀多田容子
武術の創造力―技と術理から道具まで (PHP文庫) | |
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古武術を基盤とした身体技法の追求者である甲野とその弟子である作家多田の対談。
彼らが師弟関係にあるので対談と言っても主に甲野がしゃべっていてどちらかというと問答集といった風情
刀に対する深い知識はそこらの研究者と比較してもなみなみならぬものがある。
刀の作り方や研ぎの方法に事細かに触れていてその解説は他の追随を許さない。
この方は武術者らしく、そういった知識を知識でとどめておかずに自分でもやってみるというのが凄いところ。
それゆえ他の本と比較しても説得力が段違い。
読む前はあまり期待していなかったが、おもったより良い本だった。
解説が紙幅の都合で大幅に削減されたようなのでチャンスがあれば他のちゃんと書いた本を読んでみたい。
甲野は自分の好きなことだけしゃべっていればいいと思うのに、その他のことまで話してぼろが出る感じだなあ。
あまりにも物理学の知識が無くて説得力が減退しているのもおしい。
2005.12.30 記