『歴史随談』海音寺潮五郎

歴史随談 (文春文庫)
歴史随談 (文春文庫)
文藝春秋 1996-06
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史伝だと思っていたがどうも違うようだ。
「執念谷の物語」「得意の人・失意の人」「日、西山に傾く」の三冊から編集して構成されたものとのこと。
1章
「執念谷の物語」
武田家の家臣だった羽根田輝幸の物語。
武芸に通じ、兵法にも優れたものだったが、真田昌幸の掌の上で躍らされる様は見事に描かれている。
海音寺という人は膨大な資料をもとに精緻に描くという書き方の創始者と言えるが、
この話でもそれが明確に現れている。
なぜ鈍い男がこのような判断を下したのかが明確に判る。
この作品はまま面白かった。
蝦夷天一坊」
大庭平三郎が武田信広を殺してなりすまし、ついには大名となる。
彼の子孫が松前藩を興す。
事績が丁寧に追ってありなかなかおもしろい。
最後の彼の言葉がまた上手い。
もう少し手を入れて登場人物の心情に迫ればかなりの佳作になっただろうに、そこは惜しい。
「ただいま十六歳」
目を疑うようなタイトルだが内容は大したことはない。
信長の妹お市の方の長女茶々、後の淀君が主人公だが、
どうも的を絞りきれなかった。
茶々の心情はなにかとってつけたようだし、
茶々自身の事績がこの年齢のときには無いので他の人の話が並んでいて、どうも散漫。
この年の茶々を主人公に据えた仇が見事にたたっているようだ。
2章は史伝の類だと思うが、どうも中途半端。
もっと短くするか長くするかしないとどうにも。
最後の「長蛇」はかなりよいと思うが、惜しいという印象。
もう少し最後を工夫して手を入れれば良い話になるだろうに。
3章
歴史随談はこの本の目玉とも言えるもの。
昔話したことの速記録を起こしたものだという。
これはなかなか面白い。
話があちらこちらに飛び火するので散漫な感じもするが、
一つ一つが面白いのでそう気にはならない。
逆に息つく暇もないぐらいのテンポで進む感じである。
一読してみれば海音寺の深い視点が楽しめるだろう

2006.1.9 記