『恋に散りぬ』安西篤子
恋に散りぬ (講談社文庫) | |
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江戸期の恋の物語の短編集。
「紅梅」
嫁と姑の対立が鮮やかな知恵で解決する。 姑の昔の恋が鍵となるというのはとても面白い発想だった。 登場人物の主人公と姑の心の動きが文体からも伝わってくるのは秀逸。 またこの作者にしては珍しくハッピーエンド。 この短編は面白かった。
「蘇芳」
うーん。なんだかなあ。 作品の技術レベルは高いと思うのだけれども、 ちょっとストレートすぎるなあ。 舅と嫁が出来てしまう話。 ラストまで持って行くのが強引すぎる。 もう少し主人公が決意するまでがほしい。
「菖蒲」
子が出来ぬ妻が夫の浮気を心配してという話。 ハッピーエンドなのだが、これは途中のストーリーの動きがあるのが彼女の短編では珍しい。 妻の心の動きがわかりやすく理解でき、これも巧いのではないだろうか。
「著我」
幸せな生活を送る妻が過去の思い人の噂を聞き、会いに行くがという話。 彼の気持ちも妻の気持ちもよく伝わってくる。 そう目新しい話では無いが、作者の心理描写の巧みさで持っているのだと思う。
「金雀児」
実は夫が念者だったという話。 妻の心のゆれは巧いこと書かれているとは思うが、 視点が一面的すぎて分かりづらい。 あとで説明が来るのだが、ご都合な感を禁じ得ない。
「山梔子」
仲むつまじい夫婦だったが、人柄優れた夫がその性格からやむを得ぬ仕儀で陥った苦境により、 妻を離縁してしまうという話。 この時代では家を守るために離縁も致し方ない。 それを話の骨格に利用しているのが巧い。 夫の男ぶりが鮮やかで読んでいて気持ちがよい。 妻の慕う気持ちも伝わってくる。 話の結末が離縁したところで終わっているのだが、 結局どうなったのだろうか。 おそらく作中で語られる予想通りになったのだろうけれども、 そこはご都合主義だと言われても幸せな結末にして欲しかった。
「南天」
夫が親友と金の貸し借りを巡って斬り合ってしまう。 こう書くと至ってシンプルだが、そこに至るまでの背景が緻密に組まれ、説明も巧い。 登場人物おのおのの心理描写もよくできていてストーリー展開に無理がない。 まあラストの妻の敵討ちにはついて行けなかったが。
「万両」
家の全権を握る姑に金子の盗みの嫌疑を掛けられてしまう話。 解説によると妻の成長が描かれているとの事なのだが、 何か成長しただろうか。 私にはよく分からなかった。 主人公の徒労感というか驚きなどそいういったものがラストで共感できたのでその点ではよい作品だったといえる。 夫が迎えに来た辺りが話の展開が分かりづらかった。
もうちょっと夫が強くなってほしいと感じた。 安西篤子の描く人間は自分の性格や境遇を受け入れてしまってそれを意識的に変えようとしないのが一つの特徴であろう。 そこが変化していく過程も描けるようになると面白いのではないだろうか。
2005.8.28 記