『子産(上下)』宮城谷昌光

子産(上) (講談社文庫)
子産(上) (講談社文庫)
講談社 2003-10-15
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吉川英治文学賞受賞作。
礼というものに初めて言及した子産の物語。
彼の幼少の頃から長じて、亡くなるまでを描いている。
子供時代はほとんど彼の父の子国を主人公として物語が進んでいく。
子産は子国がなすことに対してコメントをする程度である。
この部分が長く上巻一冊を費やしてしまう。
たしかにこの子国という人もなかなか面白い人物であり存分に楽しめたのだが、
タイトルを考えるとどうかなと思わずには居られない。
少々長すぎた感あり。
もしこれが上中下のうちの上巻ならばまだ許せるのだが。
下巻では子産が縦横に活躍する。
正直言って彼の他の作品と比べてみると今一つ推敲がたりなかったのではないかと思う。
それはどことは言えないのだが、彼の文体にどこかよどみのようなものを感じてしまったのだ。
ラスト近くなると急にその重しがとれたように軽やかになる。
やはり後書きにあるように宮城谷本人に何かあったのかもしれない。
この作品で見るべきは子産の描写である。
宮城谷はスーパーマンを描くのが非常に上手い。
子産は孔子の遙か上を行く春秋時代の超一流の知識人であるが、さらに父子国の血を引き戦でも一度も負けたことが無い戦上手である。
そんな男を物語の主人公に据えてしまうと普通は陳腐な展開になってしまうのだが、そうはならない。
もちろん原典があっての物語なので著者の思惑はそれほど介在しないといえばそれまでなのだが。
それを加味しても子産のスーパーマンぶりを上手く御していると言える。
もちろん物語を彩る脇役たちも忘れてはならない。
これでもかというぐらい出てくるどの人物もそれぞれ個性豊かな顔を見せてくれる。
人物造形の妙も見習いたいところである。

2005.11.25 記