『華栄の丘』宮城谷昌光

華栄の丘 (文春文庫)
華栄の丘 (文春文庫)
文藝春秋 2003-03
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久々の宮城谷作品。
何から書いていいか分からない。 この作品は是非人に勧めたい。 主人公華元、家宰、華仲、文公らの礼の守り様は胸を震わせずにはいられない。 そうした場面に出会うたび目を上げて心が静まるのを待たねばならなかった。 これほど読み進めるのに苦労した作品はついぞ思い出せない。 宮城谷の作品はかなり読んだが、これは飛び抜けている。
これからは黙って足もとの塵を拾わねばならない。 主人公側の多くの人がとても美しい心をもっていて、それらが嘘くさくなく確かな説得力をもって迫ってくる。 それはなかなかこうは出来ないという作者の哀しみが底に流れているからではないだろうか。 これ以上多くは語ることが出来ない。 とりあえず読んで見てほしい。
作品として冷静にみると、解説でもふれてあったが、極端に描写が少ない。 冒頭の華元の容貌の描写で分かるように、宮城谷はそういった華のある描写ができない人ではないのだが、 それ以外では一切出てこない。 外見ではなく中身を見てほしいという著者の思いなのだろう。 実際読み進めてみると外見などどうでもよいほど心が人を物語っている。
ラストの方は少し間延びした印象を受けた。 結末に向かって収束していく作品ではないので構わないといえばそうだが。 もう少し工夫の余地はあったかもしれない。

2005.11.13 記