『聖母の部隊』酒見賢一
聖母の部隊 (ハルキ文庫) | |
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「地下街」
よく分からない刑事のコンビがよく分からない事件をよく分からない方法で解決する。 特に見物なのは主人公の相棒で、小説でしか表現できない方法で恐ろしさ、滑稽さを表現していて、 この作者らしい乾いた文体とよく合いこの作品のリズムを生んでいる。 短編としてはなかなか面白くしあがっているのではないだろうか。
「ハルマゲドン・サマー」
これはよく分からない。 週末世界を描いているのだが、設定がよく分からないことを売りにしているので なおさらよく分からない。 これも一応、小説でしか表現できない作品である。
「聖母の部隊」
SFである。 本格的で、酒見らしくないと言えばそうである。 酒見の情熱がダイレクトで伝わってくる作品でこういったものは今まで無かった。 彼の軽妙な文体はそのままなのだが、そこに乗ってくるテーマの重さが消化されずにびしびしと伝わってくる。 異色の作品である。 しかし片手間にちょっとやってみたといったレベルではなく、 酒見の高いレベルを惜しみなくつぎ込んで書かれていて賞賛に値するできばえである。 文句なく面白い。 こういった作品もまた書いてほしい。
「追跡した猫とその家族の写真」
超常現象を舞台に酒見の軽妙な文体で物語がつづられる。 なかなかおもしろく出来ていると思う。 もちろん短編としてだが。
あいかわらず後書きがおもしろい。 彼はこの後書きの中でSFについてのかなり鋭い考察を述べていて、 その部分だけでもこの本を読む価値があるといえる程興味深い。 この本の眼目は聖母の部隊とこの後書きである。
2005.10.14 記