『黎明の双星(123)』花田一三六

4125008191黎明の双星〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)
花田一三六
中央公論新社 2003-09

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4125008256黎明の双星〈2〉 (C・NOVELSファンタジア)
花田一三六
中央公論新社 2003-11

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4125008345黎明の双星〈3〉 (C・NOVELSファンタジア)
花田一三六
中央公論新社 2004-01

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基本的にこの人はファンタジーを書かれているのだが、今回はちょっと異質な作品。
アイルランドの民族紛争を下敷きに仮想世界の民族紛争を描いている。 物語は主軸となる人物リーンの一生を描いていて、 その生き様をそれぞれの年代ことに主人公が変わっていくオムニバス方式。 それまで散発的であった活動が主軸のリーンによって集約され、後の独立戦争につながっていく。 人と人のつながりによって時代が進んでいく様はなるほど思わせる力がある。 重要な場面で主軸のリーン以外の視点、しかもリーンに近いけれどもそこまでではないような人物からの視点で わざと描いていることも多いため、少々分かりづらいところもある。 しかし、それもこの作品の味となっていると言える。 小説を書いているとつい何でも書きすぎてしまうことが多い。 逆に肝心なことを隠そうとすると、意味が分からなくなったり、わざとらしくなり作者が見えてしまうが、 この作品ではうまくそれを描いていると思う。 この作者は職人さんにあこがれがあるそうで、そのあたりをうかがいながら読むとまた面白い。
第一話目の役者の描写は見習いたい。
個人的にはこの話の先が気になった。 独立戦争や結局何を考えているのか明らかにならなかった黒幕の男などが消化不良である。 またせっかく出てきた人たちがあまり活躍せずに消えてしまったのがもったいない。 同時代に生きた人なのだから後から経過だけでも挿入するともっと深みが増したかもしれない。 特にアン・ルーに関してはもったいないとしか言いようがない。 全体を通してみればなかなか読み応えのある本だったと思う。

2005.9.25記