『耶律楚材 (上)草原の夢』 『耶律楚材 (下)無絃の曲』陳舜臣

4087486109耶律楚材〈上〉草原の夢 (集英社文庫)
集英社 1997-05

by G-Tools
4087486117耶律楚材〈下〉無絃の曲 (集英社文庫)
集英社 1997-05

by G-Tools

モンゴル帝国のチンギスハーンに仕えた才人耶律楚材の生涯を描いた作品。
彼を初めて知ったのは、とあるゲームである。登場人物のなかで異常に能力値が高かった。 他との隔絶がすさまじく、自然に憶えてしまっていた。 今考えてみてもあれは強すぎだったとは思う。 その後彼の事跡を辿ってみると凄いことをなした人だと改めて驚いた。 世界帝国モンゴルを切り盛りした男である。 生まれてから死ぬまでを見事に描ききっていると思う。 彼の生まれからして宿命付けられた葛藤や彼の判断の仕方の根拠など一本筋が通った男である。 能力は高いがそれのみを頼みにせず、内面からあふれ出す優しさがあり、それがこの作品のさわやかさを彩っていると言える。 耶律楚材自身の事跡がそもそも面白い上に、筆者が描く耶律楚材が魅力的でぐいぐい引っ張り込まれる。 描写と説明という二つを取り出すと説明が大分を占め、その内容もけして易しくはないと思うのだが、 主人公の魅力のせいだろうか、あまりそれを感じさせなかった。 上手く言えないのだがこの作者は決定的に描写を避けているような気がする。 特に視覚による描写に関して明らかである。 だがそれでも引っ張る力があるのはどういうことだろうか。 人物の顔が見えないとも思わない。 むしろ発言を通してひしひしと伝わってくる。 この問題に関しては結論を留保しておきたい。 かなり面白い本だった。
是非人に勧めたい。
最後に作者の後書きに賛意を示したい。
「運命との格闘をテーマにした中島敦が、耶律楚材に興味を持ったのはとうぜんであろう。 中島敦の耶律楚材が読めないのは私たちの不幸である。」

2005.9.29 記