『眠れる美女』川端康成

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眠れる美女 (新潮文庫)
新潮社 1967-11

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by G-Tools , 2010/02/17


眠れる美女
川端の文学作品を初めて読む。描写は見るところがある。物語の構成がいまひとつ。結末がいささか暴力的と感じた。電気毛布のスイッチを切ってはいけないと何度も念押しされているのに切ってしまう。その時点で結末が予想できてしまう。途中の回想はもっと効果的に繰り返す技法があったほうがおもしろかったのではないだろうか。
もう一点、秘密クラブはどこまでがやってもいいことで、どこからがやってはいけないことなのか設定が曖昧なままで書かれているような気がする。
「片腕」
娘の片腕を借りる話。 これもなんだか今ひとつ。主人公の感覚が非常に幼く、未だ女性と付き合ったことのない程度の思考水準である。 設定の膨らましが足りなかったのではないか。
結末もなんだか。 自分の手と交換して付けるあたりの展開はおもしろかっただけに残念。 恋愛をして相手を受け入れようとし、また受け入れたと思ったが、 何かの拍子に現実に帰り、優しさを見失って相手に接してしまうということを暗示しているのではないかと、 考えられるがそれにしても今ひとつ。 なにか置いてけぼり感あり。
「散りぬるを」
書き出しからの引き込みが今ひとつだった。 しかし読み出すと設定がおもしろい。 同じような内容を延々と繰り返し読まされるのは通常だるいものだが、そこまでではなかった。そう考えると成功していると言えはしまいか。
結末「なんだ、それはおれが三人のために作ってやった小説じゃないか。」はひどい。 せっかくの題材が生きない。 現時点での川端評はアイディアは独創的なものを持ってくるが今ひとつ練り込みが甘い。 構成はまあまあ。最後の着地がおざなり。 描写力には見るべきものがあると思う。 性的な描写という意味では全くないのだがどこか嫌らしい描写の広げ方が興味深い。


2005.5.28 記